未来23-008

私は急性期病院の感染管理者として勤務しているため、新型コロナウイルスに関するエピソードはいろいろあります。辛かったこと、驚いたこと、よかったこと、自分が成長できたこと、スタッフから信頼されたこと、悲喜こもごもですが、やっぱり辛かったことが多くを占めています。全国の感染管理を担当される看護師は皆さん同じような思いを抱いたかと思いますが、私も辛い日々を送っていました。あの頃は必死で、ひたすら仕事をこなす日々でしたので、自分の状態を客観的にみることはできませんでした。クラスターが収束せず、次々と陽性報告が自分の電話にかかってくると、いつまで陽性者が出続けるのだろうと呆然として、涙を流していたことを今でも思い出します。もう終わりだろうと一息ついていたころに陽性者の連絡が入る絶望感や、まったく感染経路を追うことができない陽性者が出たときには、なぜだろう、なぜだろうと、必死になって原因の追究ばかりしていました。今思えば、原因の追究なんて永遠に答えの出ないことにあれほど必死になって自分のかなりのエネルギーを費やしたことが馬鹿馬鹿しくもあり、どうせ感染拡大の真の原因をつきとめることなんてできもしないことに囚われていました。今なら、この可能性とあの可能性があります、くらいにとどめておくのですが、ヒアリングをしたり、現場の様子を見に行ったり、基本に忠実に調査を実施し、報告書を作成していました。もちろん、それが間違っていたこととは思いません。でも、ただでさえ、山ほど仕事があるし、院内全部の部署から「コロナ」といえばすべての領域の質問がとりあえず自分の部署に問い合わせがある状況で、院内用の携帯電話を2台持って(電話がつながらないという理由です)、24時間体制でなんの手当もなく外線連絡に対応している状況で(スーパー銭湯の更衣室で思わず病院からの連絡をとってしまったら従業員の人から怒られました)、携帯電話の契約も通話し放題に変更し、医師からは罵倒され、そのような多忙なときに疫学調査に自分の時間とエネルギーを注ぐ必要はなかったなと思います。

そんな状況ですので、3食まともな食事はとれず、眠りも浅くなり、イライラしたり涙を流したり、ひどい便秘になったり、疑心暗鬼になったりとさんざんな状態でした。一番ひどい時には、知り合いの先生に大泣きしながら自分の辛い現状を訴えたときでした(今思い出しても、涙がにじみます)。精神科の先生からは、睡眠薬を飲んでみる?とご提案いただき、服薬してみようかなとも思いましたが、薬に頼ることもなく今に至ります。

でも、辛いことばかりではありません。新型コロナウイルスの流行を機に、院内での感染部門における相対的な地位が著しく向上しました。院長や副院長からの信任もされていると自負しておりますし、院内における私の発言力も高まりました。そうなりますと、感染対策がやりやすくなるのです。新型コロナウイルス以外の感染対策も今までよりもスムーズに事が運んでいきやすくなり、ちょっとしたことも上層部職員に相談しやすくなりました。当部署がほしい資機材を、買ってもらうこともできるようになりました。そのように自由にやらせてもらっている環境に対し、心から感謝しています。新型コロナウイルスの流行がなければ、ここまで感染対策に重きを置かれることはなかったと思います。

自分自身も成長したと感じています。新型コロナウイルスの流行は、職員の気持ちに恐怖や不安を生じさせました。それに対する反応は様々で、感染対策について詳しく聞いてくる人や、一緒に協力してくれる人もいれば、その不安を怒りとしてぶつけてくる人もいました。私もそれは不安な気持ちからくることで、仕方のないこととある程度割り切ることはできましたが、それでも私だってそんなに立派な人間ではありません。理不尽なことに対しては、こちらもかなりの勢いで反論しました。その反論も、時には感情的にもなりましたが、そのように感情的に反論しても、自分を責めることはありませんでした。今までだったら、感情的な自分を許せなかったと思います。医師であろうと、立場の上の人であろうと、自分が適切だと思う意見を伝える心の強さは、かなり身につきました。もしかしたら、あまりよくない方向に成長したのかもしれませんが、良くも悪くも自分は変わったと実感しています。

新型コロナウイルスの流行は、辛いことが多く、ストレスフルな毎日でした。人前で泣いてしまったり、感情的になってしまったり、いい年して恥ずかしかったと思います。ですが、辛いことばかりではなかったと、これも確かに言えることです。このように悪いことばかりに着目するのではなく、ポジティブな側面にも目を向けることができたのは、病院の皆様が私を感染管理者として任命し、信頼していただけたことだと思います。これからも新型コロナウイルスの流行は、続きます。これからも皆様の協力のもと、患者と職員を感染から守るという私のミッションを実現していく努力をしていきたいと思います。

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