未来24-015
医療系大学におけるCOVID-19流行下の教育の危機とその対応について
2020年2月、日本はCOVID-19の波に襲われ世界中に拡散した新興感染症は、社会・経済のみならず教育活動をも停止させました。国内の緊急事態宣言と複数回のまん延防止等重点措置の発令下では、医療・福祉の臨地実習は開始できず、学生の最も深い学びの機会を奪うこととなりました。まさに看護教育の危機以外のなにものでもなかったといえます。そしてここからの3年間、我々教職員は、学生の安全性の確保と学習の質を担保するため、変化する未知の感染症のリスク管理とそしてパンデミック下の危機管理に奮闘しました。ここでは、感染対策チームの活動と臨床実習対策について報告したいと思います。
一地方都市の附属病院を持たない医療系大学のA大学では、看護・リハビリテーション・医学検査の3学科併設の強みを生かし、大学としては珍しい学内ICT (Infection Control Team)とPCR検査センターを開設しました。2020年2月 感染症専門医と感染看護の専任教員を中心に、看護師、保健師、臨床検査技師、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士など国家資格を持つ教員と物品・環境を管理する事務職員で構成するCOVID-19感染対策チームが結成されました。学長指名によるICチームは危機管理委員会との2本立で企画・実践部隊として活動しました。ICチームは、新型コロナウイルスの病原性の変化と感染経路・検査・治療に関する最新の知見をもとに実践的な感染対策を展開しました。①COVID-19 感染経路の遮断方法の立案 ②物品・消毒薬の確保と環境対策③大学の運営方針を含む感染対策マニュアルを策定 ④全学科にCOVID-19に関する最新の知識と予防、自己健康管理方法についての教育、を実施しました。特に医療系大学の学生として根拠を理解して行動できるよう教育啓蒙活動に力を入れました。学内演習開始期には感染対策のルール化と物品配置、ONLINEから対面とのハイブリッド授業への移行期では、環境整備、健康管理と予防策実践の支援など、必要と思われることは全てアセスメントし計画・実践・評価しました。8月には医学検査科教員によるPCRセンターが開設され、ICチームで全学PCR検査をスケジュールし、行動・体調管理指導を合わせて行いました。PCRの開始は、制限があった教育活動の幅を広げ、学内で早期検査をすることで学内への感染持ち込みリスクを低減し、安心安全な教育環境を提供することにつながったと考えます。翌2021年7・8月には、職員で構成された接種プロジェクトチームによる新型コロナワクチンの職域接種を実施し、大学人口の約90%に接種、副反応を調査して対処方法を支援し接種者の健康状態を確認しました。これらの活動の結果、2021年12月末までの2年間の学内感染者は一桁の数にとどめられたと考えられます。しかし、オミクロン株の爆発的流行から5類感染症移行までは、国内第6・7・8波の感染者数に比例して増加したものの、学内感染によるクラスタの発生は見られませんでした。
病院実習の直前にPCR検査で陰性確認を行って派遣することが可能となり、病院から実習受け入れ中止の連絡があった施設も、PCR検査を条件に加えることで、再実習の交渉が可能となりました。看護学科では、PCR検査の定例化に加えて、対象病院と相談し①実習参加時の健康要件②患者ケア時の予防策を細かく取り決め厳守することで、全学生がコロナ禍初年度において、実習期間の約40%を臨地で患者ケアを実践することができました。2年目は約78%、3年目は95%の臨地実習の実施率となり、看護の臨地学習機会の確保ができたと考えます。この3年間、変異するコロナ株の流行状況や感染力について検討し、臨地実習に関するCOVID-19対策についてはICチームを通して各学科の継続的なコンサルテーションを行い、実習に対応する教職員の支援となったと評価されました。
残念ながら次の新興感染症はもっと早い周期で現れると予測されています。私たちは今回の経験を生かして対応できるよう準備する必要があります。